諸悪莫作しょあくまくさ衆善奉行しゅぜんぶぎょう
  
唐の詩人の白楽天は、太守となって杭州に赴任したとき、その土地の名僧の道林和尚に、「仏教の教えの大意は何か?」と質問した。
すると道林和尚は、すかさず、「悪いことをするな!いいことをしろ!諸悪莫作しょあくまくさ衆善奉行しゅぜんぶぎょう」と応じたという。
有名な話である。たしかに、仏教が教えているのは、「悪いことをするな!いいことをしろ!」である。そして、わたしたちが悪いことをしないように、「戒」が制定されている。
だが、わたしたちは、なかなかその戒を守れない。たとえば、嘘をつくな、の戒がある。でも、夫が(妻が)がんになったようなとき、それを正直に告知できるだろうか。
真実を告げて相手を絶望させるより、嘘をついてでも相手を楽にしてやりたいと思う。それが人情ではないか。そういう考え方もある。

「悪いことをするな」より
            悪の必要ない人生を

じつは、わたしたちは、嘘をつかないという努力をするより、嘘をつく必要のない生活をすべきなのだ。
夫婦が結婚の当初から、しっかりと嘘をつく必要のない生活をしていれば(浮気や不倫をすると、嘘をつく必要が出てくる)、がんになったようなときでも、二人でしっかりと真実に直面し、そして二人でそれに耐えて行くことができるのではないか。相手に真実を知らせず、自分一人で耐えて行くのが、本当の夫婦の愛とは思えない。
とはいえ、それまでの生活を真実の上に築かずにおいて、いきなり真実を語ることはできない。普段から、嘘をつく必要のない生き方をしている必要がある。だから、仏教は、悪いことをするな、ではなしに、悪いことをする必要のない生き方をしろと教えているのだと思う。



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